地域とともにある学校づくり 地域学校協働活動
宇城地区地域学校協働活動推進実践交流会まとめ


 みなさん、こんにちは。
 本日の研修会には、学校の先生、保護者、公民館関係の方、地域コーディネーター、民生児童委員、学校運営協議会の委員、行政職員の皆さんなど、地域とともにある学校づくりを進めている方々がご出席です。これまでは、このように多様な立場の方が一堂に会しての研修会はあまりありませんでした。これからの学校の在り方を象徴しているような出席者の顔ぶれです。
 また、ご発表になったお三方は、どなたも学校の先生ではありません。地域活動を推進していらっしゃる方、公民館長、そして学校運営協議会委員さんです。ですが、全てのご発表が子どもたちの育ちを地域ぐるみで見守っていこうという内容でした。これが、地域とともにある学校づくりだと思います。
 お三方の発表についての私の思いをお話しします前に、「今 なぜ 地域学校協働活動か」について少し述べます。 
 「地域学校協働活動」とは、昨年12月に中央教育審議会が文部科学大臣に答申しました「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」において提言されたものです。耳慣れない言葉かもしれませんので、このことについて少し説明します。既に、ご存じの方は再度あたためる意味でお聞きください。
 「地域学校協働活動」とは、地域と学校が連携・協働して、地域の高齢者、成人、学生、保護者、PTA、NPO、民間企業、団体・機関など、幅広い地域住民の皆さんが学校教育活動に参画することによって、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支え、地域を創生する活動のことです。
 具体的には、学校支援活動、例えば、登下校時の安全見守り、花壇等の草花植えなどの学校環境整備、ゲストティーチャーやアシスタントティーチャーとしての授業補助、放課後子供教室や地域未来塾など、放課後や土曜日の教育活動、家庭教育支援活動、学びによるまちづくり、地域社会での地域活動など、幅広い地域住民の皆さんの参画によって行われる様々な活動のことです。
 そして、「地域学校協働本部」とは、これまでの学校支援地域本部事業のように地域と学校の連携体制を基盤として、より多くのより幅広い層の地域の皆さん、団体などが参画し、緩やかなネットワークを形成して地域学校協働活動を推進する体制のことです。中教審答申では、地域学校協働本部の整備について次のように提言しています。
 従来の学校支援地域本部等を基盤として、「支援」から「連携・協働」、「個別」の活動から「総合化・ネットワーク化」へと発展させていくこと。そのため、 ① コーディネート機能を充実させること、② より多くの地域の皆さんの参画による多様な地域学校協働活動を推進すること、③ 地域学校協働活動が継続的・安定的に実施されることを求めています。
 この「地域学校協働活動」へ至るこれまでの経緯を少し眺めてみます。
 昭和40年代から50年代にかけて、学校教育と社会教育がそれぞれ独自の教育機能を発揮して、互いに足りない部分を補完しあいながら協力して子どもたちを育てていきましょうという「学社連携」を社会教育の側から学校にアプローチしました。しかし、「学校は敷居が高い」や「学校だけで子どもの指導は可能」などの理由から学社連携はなかなか成果を上げることができませんでした。
 平成元年改訂の指導要領に「生活科」が導入され、学校外での社会体験や自然体験の必要性が叫ばれるようになりました。また「総合的な学習の時間」の創設が、学社連携から一歩進んで学社融合という言葉が叫ばれるようになりました。「学社融合」は、学校教育と社会教育がそれぞれの役割分担を前提とした上で、そこから一歩進んで、学習の場や活動など両者の要素を部分的に重ねあわせながら、一体となって子どもたちの教育に取り組んでいこうとする考えです。
 そして、平成8年4月の生涯学習審議会の答申「地域における生涯学習機会の充実方策について」と同じ年の7月に出された中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で「開かれた学校」づくりが提言されました。ゆとりのある中で「生きる力」を育てる教育への転換をめざして、「学校が社会に対して「開かれた学校」となり、家庭や地域社会とともに子供を育てていくことが重要」など、学校教育と社会教育が連携した教育の推進の重要性を述べています。この答申は平成14年度から実施された学習指導要の基となっています。
 そして、昨年12月の中央教育審議会答申で「地域とともにある学校」づくりが提言されました。
上益城のある教頭先生が「開かれた学校づくりと地域とともにある学校づくりとはどこがどう違うのですか?」との質問がありました。地域とともにある学校とは、開かれた学校から一歩踏み出し、地域の人々と目標やビジョンを共有し、地域と学校が一体となって子どもたちを育む学校づくりのことです。地域の人々が、子どもたちが抱える課題に対して当事者意識をもって役割を分担し、社会総掛
かりで子どもたちの育ちを支援していこうとの考えです。つまり子どもたちの生きる力を地域ぐるみではぐくんでいくための仕組みです。生きる力とは、皆さんご存じの通りですが、私は特に、確かな学力を身につけること、豊かな心をはぐくむこと、そして我がふるさとを誇りに思いふるさとの未来を担う意志を持つことだと考えています。
 また、人口減少は喫緊の課題です。学校と地域の両方を元気にする、学校を核とした地域創生を求める取組でもあります。
 平成27年12月、日本創生会議が将来の人口を予測しました。内容はとてもショッキングなものでした。皆さんもご覧になったと思います。宇城管内の予測を調べてきました。そこに示していますのは、2010年人口概数と2040年推定人口概数です。
   宇土市 約37,700人→約29,600人 (約2割減)
   宇城市 約61,900人→約46,300人 (約3割減)
   美里町 約11,400人→約6,200人 (約5割減)
 また、内閣府発表によりますと、2060年には日本の総人口数を、8,674万人になると推計しています。驚くことに、超高齢化社会になるということです。2.5人に1人が65歳以上で、4人に1人が75歳以上だといいます。つまり、高齢者が総人口の4割を占めるといいます。1年間の出生数は48万人、15歳から64歳の生産年齢人口は4,418万人と推計しています。
 これらからもお分かりのように、地域とともにある学校づくりは、人口減少に歯止めをかけるとともに教育の場からの地域創生です。
 次に、コミュニティ・スクールについて少し述べます。
 これからの学校は、変化の激しい社会の動きにしっかりと目を向けて、教育課程を工夫し、教育活動を展開する必要があります。だからこそ、保護者や地域住民とお互いの情報や課題を共有し、「これからの時代を生きる子供たちのために」という共通の目標・ビジョンを持って、同じベクトルで日々の教育活動を進めていくことが求められています。そして、教育課程だけでなく、子供たちの家庭や地域の中での学びや発達段階に応じた心の成長なども一緒に考える必要があります。そこで、保護者や地域住民と一体となって子どもたちの育ちを支えていくシステムが必要になります。その場として、学校運営協議会を設置する必要があります。この仕組みを発展させ、さらに多くの地域住民や保護者の皆様に子どもたちの成長に関わっていただけるような学校にし、子どもたちが地域の大人と関わる機会をたくさん作ることは子どもの成長に大きなプラスとなります。さらには、学校と地域がパートナーとして連携・協働して、子どもたちの学びを充実させていく必要があります。
一言で表現するなら、コミュニティ・スクールは、学校運営や学校の課題に対して、広く保護者や地域住民の皆さんが参画できる仕組みです。地域の人々が当事者として、子どもの教育に対する課題や目標を共有することで、学校を支援する取組が充実するとともに、関わる全ての人に様々な魅力が広がり、地域と共にある学校づくりのツールです。
 宇城地区では、以前から地域とともにある学校づくりに取り組んでおられます。宇土市では、5つの小学校、2つの中学校で法に基づく学校運営協議会が整備されています。他の市町でも熊本版コミュニティ・スクールが整備されたり、整備に向け準備しておられます。それは、先ほどのお三方の発表からも分かります。
 お三方の発表をお聞きして私が感じましたことを少し述べます。
 まず、「網田教育の里づくり」についてです。
 皆様ご存じのように、網田地区は、地域と学校が協働した教育活動が早くから展開されていました。子どもたちの学習を支える「寺子屋」を地域の有志の方々が主宰しておられました。これが、放課後子ども教室となったとも聞いております。また、宇城地区では、いくつもの学校で実施されています通学合宿、これについては走潟公民館長さんが詳しくご発表されましたが、この通学合宿もいち早く実施されていたと聞きます。このように「地域の子どもは地域で育てる」という考えが強く根づき、子どもの問題を学校と地域の協力・連携で解決しようとする体制が整備されている地域社会です。過日、網田小中学校運営協議会に参加しました。委員の皆さんと先生方とで、食生活の指導に関することや先生と子どもの関係等、教育課題について活発な議論が交わされていました。
 いま、国や県が推奨しています「地域学校協働本部」に備えるべき機能として、①コーディネート機能、②多様な活動、③継続的な活動を挙げています。網田教育の里づくりは、まさにこの3つの機能を持っています。ご発表にありましたように、網田教育の里づくりが、地域とともにある学校づくり、さらには地域再生へと繋がっています。
 走潟地区通学合宿について、述べます。
 通学合宿は、ご発表の中でも触れられましたように、福岡県庄内町立生活体験学校での実践がモデルとなっています。庄内町立生活体験学校の指導者、正平辰男先生は、「真の体験といえるものは、課題に基づいて子ども自身による見通しが立てられていなければならない。そして、課題解決の過程を通じてその意義や有効性が体得されなければならない。子どもの立てる見通しは欠落部分や錯誤がある。その欠落部分や錯誤を実践によって修正させていく作業の過程が意味のある体験となる。したがって、急がず、しかも繰り返し実践させることが重要である。」と述べておられます。 
 走潟公民館では、通学合宿の目的を、「働くことを学ぶ、してはならないこと・しなくてはならないことなどの自明のことを学ぶ、他人とともに暮らす喜びと苦しみを学ぶ、地域住民との関わりを通して地域の良さを学ぶ、関わりを持つ地域住民の人間関係や連帯を密にする」ことが明確にしてあります。これは、正平先生の主張と全く趣旨を同じくするものと思います。
 そして、通学合宿実行委員会は、校区のほとんどの団体で構成されています。委員の数は30名を超えます。聞くところのよりますと、校区民の方から、「わしは高齢で何も加勢はできないが、風呂なっと提供したい。」などの申し出もあっているそうです。まさに、「地域の子は地域で育てる」の風土、学校を核とした、子どもを核とした地域作りが進められています。これが、地域学校協働活動であり、実行委員会の機能が地域学校協働本部であると思います。ますます、学校と地域が子どもを縁とした地域作りが進むことを期待しています。
 海東小応援団運営協議会について述べます。
 海東小学校に限らず小川地区は、地域と学校が一体となった地域作りが進められています。
 昨年12月の中央教育審議会答申にある、「開かれた学校」から「地域と共にある学校」へ、それを支える「地域学校協働活動」の具現化に向けた取組を始めておられます。地域の人々は、子どもたちに知恵や実践を伝えたり、自らの学びを発表したりなど、子どもとふれあう活動を通して、充実感・達成感を味わっています。これが学校と地域で連携や協力を深め、新たな地域づくりだと思います。
 ご発表になった事例、4月の熊本地震以来、学校前の道路の車の通行量が大幅に増えたことに対する地域の取組。熊本地震によって幹線道路が被害を受け、迂回路として使われていた学校前の道路が、信号がほとんど無いことから、交通渋滞を避ける抜け道として使われるようになり、子どもたちの通学路の安全が脅かされるようになったこと。このことを応援団協議会で、警察署や市、安全協会等に働きかけて、押しボタン式の横断信号設置を働きかけておられます。この取組は学校を中心に据えた地域づくりです。ますます、地域と共にある学校づくりが進化しますよう期待しています。
 せっかくの機会ですので、地域学校協働活動の実践事例を2つ紹介したいと思います。
 益城町の益城中央小学校では、「傾聴ボランティア」という活動を実践しています。国語や算数などの学習時に、地域の方に8人ほどおいでいただいて、子どもたちの発表をグループごとに聞いて貰うのです。傾聴する方には、①よく聞いて貰う、②褒めて貰う、③一つでもいいので質問して貰う、④教えることは担任が行うのでやめて貰う、の4点をお願いしてあります。個人情報などの守秘義務はもちろん守っていただきます。国語の授業では、作文指導の時間にこれを活用しています。4人から5人のグループに1人の傾聴ボランティアがつきます。子どもたちは書き上げた作文を一人ずつ読みます。ボランティアは一生懸命聞き、作文のすばらしいところを褒めます。そして、疑問に思った点を質問します。たとえば、「昨日、○○ちゃんたちと○○ごっこをしてとても楽しかったです。」と表現してあるのを、「楽しいと思ったのはどんなところなの?」などと質問します。子どもたちは、「こんなところが楽しかったです。このことを作文に付け加えます。」などと応えます。つまり、作文の推敲をしているのです。いま、指導要領では、各教科における「言語活動の充実」を求めています。また、アクティブラーニングがとなえられています。1時間の授業で、子どもたちは、全員が発表します。全員がボランティアと意見交換します。それを他の子どもたちは聞いています。他の子どもへの質問を自分に対する質問ととらえる子もいます。会話も深まります。まさに、言語活動の充実であり、アクティブラーニングだと思います。
 この手法はどの教科にも応用できます。先生方、是非試してみてください。
 次は、中学校2年生で実施されます職場体験活動の事業所選びに関する実践例です。熊本地震でもっとも被害の大きかった益城町では、これまで職場体験を引き受けていた事業所が大きな被害を受けました。この職場体験の事業所選びについて、学校への震災復興支援に入っているNPO法人のカタリバのアドバイスを受けて、高校生の求職活動の手法を取り入れて体験事業所を決定する取組を木山中学校は行いました。事業所一覧を、縦軸に、「主に体を動かす仕事」「主にものをつくる仕事」、横軸に「主に人と接する仕事」「主に頭を使う仕事」に分けた領域に事業所名が書かれています。生徒たちはそれを手がかりに、自分の特性や夢などを考慮して事業所をエントリーします。エントリーしたものをもとに、校長・教頭・NPO・担当が面接官となり、、生徒を面接して体験事業所を決めたと言います。面接では、生徒は自分が希望した事業所で体験活動ができるように、自分の長所や将来の希望職種等を交えて、エントリーした事業所での体験をしたいと訴えたと言います。まさに、高校生が求人面接に臨む姿そのものであったそうです。このような取組を通して、職場体験活動の効果が倍加されるのではないでしょうか。参考にしていただきたいと思います。
 先日、上益城のある中学校の学校運営協議会に出席しました。その席で、学校運営協議会長さんが次のようにおっしゃいました。
「子どもたちに我がふるさとのよさをたくさん教えてください。子どもたちが成人したあかつきには、我がふるさとの担い手となるよう教え導いてください。いろいろな都合で、ふるさとから離れなければならなくなったとしても、第一線をリタイアした後にはふるさとに帰ってくる人に育ててください。そのために私たちは一生懸命協力します。」と。
 これは、地域の人々の願いではないでしょうか。
 学校・家庭・地域が一体となって、生まれ育ったふるさとを誇りに思い、未来のふるさとを担う人材をはぐくむ地域学校協働活動が充実しますことを祈念して、まとめとします。